※鉄道博物館公式Facebookにて2020年6月28日に投稿された内容となります。
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常磐線に残る明治の面影は 駅周辺だけでなく 土木構造物にも見ることができます。
常磐線はもともと線形がよく、他の幹線に比べると線形改良や勾配緩和、線路付け替えを行った区間はわずかで、東北本線や北陸本線のような線路付け替えによって生じた大規模な廃線跡はありません。ただ電化に際して取手以北は交流電化が採用されたことで、明治時代に構築されたトンネルは断面が小さいため使用できず、平(現・いわき)以北のトンネルはすべて新トンネルが掘り直され、前後の区間を含めて新線に切り替えられています。いずれも旧線に沿う形で建設されたため、車窓からその姿を望むことができる旧トンネルもいくつか存在します。 なかでも久ノ浜~広野間は海際まで山地が連なる地形のため、常磐線も9ヶ所の旧トンネルが連続しており、それぞれに拱門(きょうもん/トンネルの出入口)のデザインが異なっていました。なかでも末続~広野間の旧末続トンネル(1898年完成、全長350.94m)のいわき方拱門は、上部に破風(はふ)と呼ばれる三角切妻がつく独特のデザインで、かつては交通量の多かった陸前浜街道と交差する末続陸前浜街道踏切のすぐ北側に立地し、通行者の目につきやすいことから、このようなデザインを採り入れたものと思われます。 その先にある旧東禅寺山トンネル(1898年完成、全長136.44m)は曹洞宗の古刹・東禅寺の直下に掘られており、明治期の鉄道建設の強引さを今に伝えるトンネルでもあります。参道横に設けられたいわき方の拱門は左右に翼壁(ウィング)を持った整った意匠を見せ、また左右の壁柱(ピラスター)が二段になっており、一段目が門柱のような形状で、寺院の直下にあることを意識したようなデザインとなっています。 竜田~富岡間の常磐線最長だった旧金山トンネル(1898年完成、全長1654.76m)のいわき方拱門は、凸形をした特徴的な胸壁(パラペット)を持ち、レンガの凹凸が見事な陰影を生み出しています。そしてその中央部には動輪をかたどった日本鉄道の社紋があしらわれており、日本鉄道の面影を今に伝える貴重な遺構となっています。その線区の最長のトンネルには、扁額やその代わりに社紋を掲げることがあり、旧金山トンネルは原ノ町方拱門には扁額も掲げられており、まさに常磐線を代表するトンネルとしての意匠が施されていることになります。 一方で橋梁は、列車回数の増加や通過列車の重量増加により、多くは架け替えられています。ただ橋げたを支える橋台はそのまま使用されていたり、岩間~友部間の小泉橋梁(1895年完成)のように、明治期から変わらず使用されているものもあり、長年の風雪に耐えて今も現役を通す姿を見ることができます。