※鉄道博物館公式Facebookにて2020年4月30日に投稿された内容となります。
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昼下がりの上野駅8番線 穏やかな陽ざしのなか 運転開始まもない列車が停まっています。
1958年10月10日に運転を開始した上野~青森間の特急「はつかり」です。ホームには「12.20 特別急行 はつかり号 常磐線回り 青森行」と記された案内板が吊り下げられ、発車時間・列車名とともに吊られた乗車口案内、さらに柱には「東北特急 祝はつかり号 運転」と記された装飾がいくつも取り付けられています。大きな荷物を持った乗客や、見送り人でホームは混み合い、「はつかり」の姿を見に来たのか小さな子供の姿も見え、華やかな雰囲気が漂っています。初の東北特急への期待の大きさがうかがえる1枚で、装飾物が多数あることから運転開始間もない時期の撮影と思われます。
「はつかり」の運転開始前の国鉄の特急は、東京から大阪や山陽九州方面、京都から九州へ向かう列車しかなく、東北地方には急行列車しか運転されていませんでした。沿線各所からは「東北にも特急を」という声が大きく、それに応える形で「はつかり」は運転されることになりましたが、運転時刻は下り上野発12:20、青森着0:20、上り青森発5:00、上野着17:00と青函連絡船を介した北海道連絡を重視したもので、必ずしも東北各地で利用しやすいダイヤとはいえないものでした。
また写真を見てもわかるとおり、東海道本線の昼行特急では当然とされた展望車の連結はなく、客車もそれまで臨時特急「さくら」(東京~大阪間)で使用していたスハ44形を転用したもので、車体色はそれまでの茶色から、ブルーにアイボリーホワイトの帯を2本入れたものに変更して使用しました。「はつかり」運転開始に際しては新車の配置もなく、車体塗色を一新して精一杯の化粧直しを施しましたが、東海道方面では同年の10月からは20系客車が新製されて「あさかぜ」に、さらに11月には20系電車(のちの151系電車)による「こだま」の運転が開始されており、その格差は明らかでした。
とはいえ、この写真からは「初の東北特急」への期待や高揚感が感じられます。駅の装飾や客車後部に掲げられた行灯式のテールサイン(黄色地に3羽の青い雁、赤い縁取りというデザインで、機関車に掲げられたものとは異なるカラー)、ホームで列車を見つめる人々の姿など、隅々まで「はつかり」への期待が満ちているように見えます。
この1枚、単にある日の上野駅の情景というにとどまらず、東北地方と常磐線にとって画期となった列車への熱い思いが写し込められていると感じるのは、私だけでしょうか。