※鉄道博物館公式Facebookにて2020年4月3日に投稿された内容となります。
※該当記事のリンクは下部に記載。
本年3月14日に長らく不通の続いていた常磐線が全線で運転を再開しました。
これを記念して当館では、3月14日から企画展「全線運転再開記念 常磐線展」を開催する予定でしたが、新型コロナウィルス感染防止のため臨時休館が続いており、残念ながら、いまだ本展をお客さまにご覧いただくことができません。そこでこのfacebookを通じて展示内容の紹介や、常磐線にまつわる話題を紹介していきたいと思います。
この写真、今回の企画展「全線運転再開記念 常磐線展」のメインビジュアルとして使用しているもので、昨年12月の常磐線不通区間試運転の報道公開が行われた日に、当館のスタッフが草野駅で撮影したものです。実はこの写真、たまたま撮影できたもので、まさに偶然の産物と言えるものでした。
試運転当日は当館からも担当者2名が報道公開に参加し、東日本大震災以来約8年9ヶ月ぶりに不通区間に列車が走った様子を取材しました。報道公開自体は午後の早い時間で終了し、その後は不通区間両端の富岡駅、浪江駅を回り、さらに常磐線沿線の記念碑や、明治期建設のトンネルの遺構等の現況を記録して回りました。
やがて夕方になってそろそろ勤務時間も終了のころ合いとなり、一緒に行ったスタッフは「せっかくここまで来たのだからスパリゾートハワイアンズの温泉に入りたい」と言い始めたのですが、私は「まだ草野駅の油庫のチェックができていないからダメ!」と却下し、草野駅へ向かいました。
すると午前中から曇りだった天気がにわかに回復しだし、草野駅に着いた頃には鮮やかな夕日が現れました。そうした中で1898年の駅開業時から建つレンガ造りの油庫(照明灯や室内灯等に使用する石油類を保管する建物)を撮影していると、富岡方から時刻表にはない列車が到着しました。それは午前中に不通区間の試運転に使用されていたE531系で、行先表示も「試運転」を出したまま。この日草野駅にこの編成がやって来るとはまったく知らず、慌ててカメラを向けると、次第に暮れなずんでいく夕焼けを背景にたたずむ、印象的な写真を撮ることができました。
長く不通だった富岡~浪江間に列車が走った日の写真というだけではなく、常磐線の記念すべき日の記録として今回の企画展を象徴するカットにもふさわしいもので、この写真をメインビジュアルに採用することにしました。
このように企画展を開催する場合、ひとつのテーマに即して長く準備を続けていると、不思議なことに資料や写真が手元に集まってくることがあります。この写真もまさに向こうから撮影チャンスがやってきたようなもので、こうした小さな幸運の積み重ねが企画展準備の裏にはあるのです。温泉に行かなくてよかった!